天台宗とは?起源や教え、葬儀を紹介

2022.04.06

仏教にはたくさんの宗派がありますが、その中でも有名なものが天台宗です。平安時代に最澄によって開かれた天台宗には、非常に長い歴史があります。

一方、天台宗の葬儀に参列すると、通常の葬儀とは異なる部分が多いため、はじめての方は驚くかもしれません。そこで今回は、天台宗がどのような宗派であるか、その歴史や教えを紐解きつつ、天台宗の葬儀やマナーについて解説します。

いつ天台宗の葬儀に参列しても問題ないように、予習してみてはいかがでしょうか。

天台宗とは

天台宗は仏教の宗派のひとつで、「万人が仏になれる」という大乗仏教の教えを説くことが特徴です。本章では天台宗の起源や歴史、教えについて解説します。

天台宗の起源と歴史

天台宗は大乗仏教のひとつで、もともとは中国が隋の時代だったときに、天台大師智顗(ちぎ)と呼ばれる人物によって開かれました。

その後平安時代に、桓武天皇の命を受けた遣唐使の最澄によって唐から持ち帰られ、日本全国に広がっていったそうです。しかし、この時点の日本には、すでにほかの仏教が広がっていました。

奈良時代から平安時代にかけての日本では、寺院が政治に対して強い影響力を持っていたそうです。そのため桓武天皇は、政治と仏教を分断するために、従来の仏教とは異なる信仰を取り入れたいという意向を持っていました。

その後、最澄やその弟子円仁が天台宗を広め、比叡山延暦寺を中心に発展していきます。明智光秀によって織田信長が籠城していた本山の比叡山延暦寺は焼き討ちにあいますが、江戸時代に徳川家康が信仰したことで、日本中に広がっていきました。

天台宗の教え

天台宗では、万人がすべて仏になるという教えを説いています。これが「法華一乗の教え」と呼ばれるものです。なお、法華一乗の「乗」は乗り物を意味し、死後に人の魂が乗り物で仏様の世界へ導かれるためのものだといわれています。

一方、最澄は天台宗のベースとなる天台教学だけでなく、「密」「禅」「戒」の3つの宗派を日本に広めたことでも有名です。その結果、天台宗は総合仏教と呼ばれるようになりました。さらに、法然や親鸞、日蓮などが別宗派の僧侶が、こぞって天台宗を学んでいます。

なお、天台宗の宗教的な憲法である天台宗宗憲には、以下のように記されているそうです。

「天台宗は宗祖大師立教開示の本義に基づいて、円教、密教、禅法、戒法、念仏等いずれも法華一乗の教意をもって融合しこれを実践する」

つまり、天台宗はさまざまな仏教の教えを融合した宗派ということです。

天台宗のおもな経典としては、「法華経(ほけきょう)」「梵網菩薩戒経(ぼんもうぼさつかいきょ)」「金剛経(こんごうきょう)」「大日経(だいにちきょう)」「蘇悉地経(そしつじきょう)」などが知られています。また、お経は「南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)」を唱えることが一般的です。

天台宗の葬儀

天台宗の葬儀は一般的な仏教の葬儀とは若干形式が異なります。天台宗の葬儀がどのようなものか、葬儀の流れも含めて解説します。

天台宗の葬儀概要

天台宗の葬儀は、以下3つの儀式によって構成されている点が特徴です。

・顕教法要(けんぎょうほうよう):法華経を読み上げて、故人様の生前の行いを懺悔する
・例時作法:阿弥陀経を読み上げて、故人様が極楽浄土へ往生することを願う
・密教法要:光明真言を読み上げて、本尊を供養する

顕教の教えは、自身を救い他人を利することで、密教の教えは仏と自己の一体を観念し、仏の力で仏の境地に達することだといわれています。つまり、顕教と密教の教えによって、故人様の罪や穢れを払い、例時作法で仏道へ導くという考え方といえるでしょう。

一方、天台宗の葬儀では「散華(さんげ)」と呼ばれる、紙を柩などへまく儀式が行われる点も特徴です。蓮の香りは邪悪を払うと考えられているため、蓮の花びらに見立てた紙をまく儀式が行われるようになりました。

天台宗の葬儀の流れ

天台宗のお通夜の流れは、以下の通りです。

1.枕経(まくらきょう):故人様の枕元で、阿弥陀経を読経
2.枕経の終了後、朝は法華経、夕方からは阿弥陀経を読経
3.読経後、剃度式(ていどしき:出家するために髪を剃る儀式)を実施
└ただし、髪を剃る真似をすることが一般的。また、剃度式の際には辞親偈(じしんげ)、懺悔文(ざんげもん)、授三帰三竟(じゅさんきさんきょう)が順番に読み上げられます
4.授戒式:故人様に戒名を与える儀式

一方、天台宗の葬儀の流れは、以下のような形式が一般的です。

1.導師入場
2.参列者が起立し、列讃(れっさん):穏やかな楽曲が流れる儀式
3.光明供修法(こうみょうくしゅほう:阿弥陀如来を迎え、故人を仏にする儀式)
4.九条錫杖(くじょうしゃくじょう):杖を振りながら声明を唱える儀式)
5.随法回向(ずいほうえこう ):故人様を供養するための儀式
6.2回目の列讃
7.鎖龕(さがん):故人様の棺を閉じる儀式
8.起龕(きがん):故人様の棺を送る儀式
9.奠湯(てんとう)、または奠茶(てんちゃ):故人様のご霊前に茶や湯を備える儀式
10.引導:導師がご霊前にて故人様を極楽浄土へ送り出す儀式
11.下炬(あこ):松明や線香で梵字を描く儀式
12.法施(ほっせ):読経し念仏を唱える儀式
13.総回向偈(そうえこうげ):回向文を唱え、お葬式を終了するための儀式
14.導師退場

導師が退場後、出棺の運びとなります。通常のお葬式に比べ、儀式の数が多いことに驚く方も多いでしょう。なお、葬儀の内容は、地域や寺院によって若干の違いがあるので、心配な場合は事前に確認しておくことをおすすめします。

天台宗の葬儀におけるマナー

天台宗のお通夜やお葬式における、お線香のあげ方と数珠のマナー、そして参列時の一般的なマナーを解説します。

お焼香のあげ方

天台宗では基本的にお焼香を3回あげます。

ご霊前で合唱礼拝を行い、親指と中指、人差し指でお香を取って、左手を添えながら額でお焼香をしましょう。この動作を3回繰り返した後、再度合唱礼拝を行うのが、天台宗におけるお焼香の基本形です。ただし、地域や寺院などによっては、お焼香の回数が異なる場合もあります。

お線香を使ってお焼香を行う場合には、1本、または3本使用することが一般的です。なお、使用するお線香の本数は、ご遺族や会場のスタッフが教えてくれるでしょう。

お線香を使ったお焼香の手順は、以下の通りです。

1.左手にお線香を持ち、ろうそくで点火(火は息ではなく、手であおいで消す)
2.数珠にお線香の煙をかける
3.お線香を香炉に立てる(1本の場合は中央、3本の場合は手前に1本、奥に2本)

数珠のマナー

天台宗の葬儀に使う数珠は、108つの楕円形の主玉に加え、1つの親玉と4つの天玉がついたものが正式なものです。男性は9寸、女性は8寸のものを使用することが一般的といわれています。ただし、ご自身の宗派が天台宗以外の場合は、信仰する宗派の本式数珠を使いましょう。

数珠を持ってお参りするときには、両手の人差し指と中指の間にかけ、紐を垂らしたまま手を合わせます。また、手に持つときには、二重の輪にした状態で、親指を左手の人差し指の上において、紐を垂らすように握るのが天台宗の数珠のマナーです。

葬儀参列時のマナー

天台宗の葬儀に参列時に持っていくお香典の表書きには「御霊前」と書きましょう。ただし、四十九日を過ぎている場合は「御仏前」と書く必要があります。なお、四十九日かどうかわからない場合には「御香典」と表書きに書いておけば問題ありません。

また、お焼香は先ほど紹介したマナーに則って実施することが好ましいですが、特に指定がない場合は自分の宗派の方法で実施しましょう。

まとめ

天台宗は日本に古くから広がっている仏教の宗派のひとつで、現在でもその文化が生き続けています。誰もが仏になれるという教えは、現代社会においても、多くの人々にとっての心の拠り所になっていることでしょう。

また、天台宗の葬儀は一般的な葬儀と異なる部分は多いですが、故人様を偲ぶ儀式であることに変わりはありません。基本的なマナーを押さえることも大切ですが、故人様との最後の時間を有意義に過ごすことがもっと大切なことです。故人様を慈しむ気持ちを持って、気負わずに参列すればよいでしょう。