霊柩車とは?寝台車との違いや種類、遍歴などを紹介

2022.02.22

ご遺体を火葬場へ運ぶための霊柩車。最近は寝台車の台頭などもあり、以前に比べて霊柩車を見かける機会は減っています。

霊柩車は大正時代あたりから使われるようになり、時代によって変化しながら、現在のスタイルに落ち着いたようです。今回は霊柩車がどのようなものかを解説しつつ、寝台車との違いや霊柩車の種類、遍歴などを紹介します。

霊柩車とは

そもそも霊柩車がどのような車なのかを理解してもらうために、寝台車との違いも含めて解説します。

霊柩車

霊柩車とは、亡くなられた方のご遺体を葬儀会場から火葬場まで運ぶときに使用する専用車のことです。ご遺体を納めた棺を運ぶ必要があるため、霊柩車の後部には棺を固定するためのレールやストッパーが装備されています。喪主は位牌をもって助手席に乗車することが一般的です。

以前は霊柩車といえば、高級な乗用車に金色の装飾を施した宮型霊柩車のイメージが強かったと思いますが、最近は減少傾向です。現在では、さまざまなタイプの霊柩車が利用されています。

また、霊柩車はご遺体を運ぶことを目的とした特殊車両という理由から、緑色の8ナンバーのナンバープレートである点が大きな特徴といえるでしょう。

寝台車と霊柩車の違い

霊柩車と混同されることが多い車両として、寝台車があります。

寝台車はストレッチャーごと人を乗せるための車両で、ご遺体を病院から自宅、自宅から葬儀会場などで運ぶために利用されるだけでなく、病院や怪我人など生きた人を運ぶ点も特徴です。そのため、寝台車には付き添い人が乗車できるスペースがあることが一般的です。

また、霊柩車に比べ利用料金が安価なため、近年利用者が増えています。

一方、霊柩車はご遺体を葬儀会場などの安置場所から、火葬場へ運ぶために利用される点が、寝台車とのもっとも大きな違いです。

最近あまり霊柩車をみかけなくなった3つの理由

霊柩車を近年みかける機会が減った理由は大きく3つあります。それぞれがどのような理由なのかを解説します。

理由1:死を連想させるため

派手な装飾の宮型霊柩車は「棺を載せる車」と一目して死を連想させます。また、近年は人々の価値観やライフスタイルの変化によって、火葬場の近隣に住む住人から死をイメージさせる霊柩車を頻繁に見かけることに対する苦情が寄せられることが増えたようです。

その結果、近隣住人の心情を配慮するため、霊柩車の使用を禁止する自治体が増えました。こうした理由から、霊柩車を見かける機会が減っています。

理由2:葬儀会場が変化したため

霊柩車をあまり見かけなくなった2つめの理由は、葬儀会場の変化です。

以前は、自宅で葬儀を行い、その後、ご遺体を火葬場へ運ぶことが一般的だったため、霊柩車が利用されていました。しかし近年は、葬儀会場で葬儀を実施するケースが増えたことから、ご遺体を納めた棺を運ぶ必要が減少傾向です。特に近年は火葬場を併設した葬儀会場が増えており、そもそも棺を運ぶ必要がなく霊柩車のニーズが減っています。

理由3:葬儀の規模が縮小したため

人々のライフスタイルや価値観が変容し、家族葬など小規模な葬儀が増えました。そのため、派手な見た目の宮型霊柩車と不釣り合いになったことも、近年霊柩車を見かけなくなった理由といえるでしょう。

最近は、一般車と見た目が変わらないミニバンタイプのバン型霊柩車が主流になっています。よって、霊柩車としてのイメージが強い宮型霊柩車を見かけなくなっただけで、霊柩車自体が極端に減っているわけではありません。

霊柩車の種類は4つ

霊柩車の種類は大きく分けて4種類です。宮型霊柩車も含め、それぞれがどのような霊柩車なのかを解説します。

1.宮型霊柩車

宮型霊柩車とは、金箔や宗教的な彫刻で装飾された屋根付きの豪華な霊柩車です。ベンツやキャデラックなど、高級車を改造したものが多く、現在はご遺体を火葬場へ運ぶときなどに利用されています。

なお、宮型霊柩車の屋根部分は「輿(こし)」と呼ばれており、葬儀が土葬で行われていたときに使われていた神輿をモチーフにしたものだそうです。

2.バン型霊柩車

バン型霊柩車とは、バンやワゴンの後部を改造したタイプの霊柩車で、見た目は普通のバンとほぼ同じです。バン型霊柩車の後部には、棺を固定するためのストレッチャーが装備されています。

色は黒と白が一般的で、特に白のバン型霊柩車は一般車と見分けがつきづらく、霊柩車だと認識されないことから、利用者が増えているようです。

3.バス型霊柩車

バス型霊柩車は、マイクロバスなどを改造した霊柩車です。バスという性質上、ご遺族や参列者、僧侶などが全員で火葬場へ移動できる点が大きな特徴といえるでしょう。

家族葬を実施する過程が増えた現在、バス型霊柩車の需要が増加傾向です。ただし、バスの後部に棺を収納する形式になっているため、参列者の中には抵抗感を示す方も多いため、利用する際には留意が必要です。また、バス型霊柩車を手配できる葬儀業者も限定されているため、利用したい場合は事前に確認しておきましょう。

4.洋型霊柩車

洋型霊柩車とは、大型の外国車や高級国産車を改造して作られた、リムジン型とも呼ばれる霊柩車です。洋型霊柩車は宮型霊柩車に比べシンプルなデザインが特徴で、近年もっとも一般的に利用される霊柩車といえるでしょう。

車両の後部に棺がスムーズに入るように改造されており、霊柩車によっては助手席から故人のお顔を見られるものもあります。

霊柩車の推移

霊柩車が日本に導入されたのは大正時代の半ば頃であり、都心部を中心に利用がはじまったそうです。大正時代といえば、自家用乗用車などは数えるほどしか走っていなかった時代といえます。

近代的な自動車の上に、柩を運ぶための輿を模した上屋を乗せた霊柩車が、現在でも見られる宮型霊柩車です。ただし前述の通り、現在このような装飾を施した霊柩車は少なくなってきています。

しかし、ほかの霊柩車とは異なり一目見たらすぐに霊柩車だとわかるため、多くの人が「霊柩車」と聞いてまず真っ先に思い浮かべるのはこのタイプの霊柩車といえるでしょう。基本的には「運転手のほかに同乗できるのは1名だけ」という場合が多いことが特徴です。そのため、喪主が乗り込むことが一般的で、その際には遺影やお位牌を持って乗ります。

大正時代より前

霊柩車が導入される前の葬儀では、もちろん自動車は利用されていません。自宅から埋葬地や火葬場まで、柩は駕篭や輿に乗せて運ばれることが一般的でした。会葬者は葬列を組み、それに付き添いました。葬列を組むという慣習は、おそらく古代から形態を変え、長い時代にわたって行われてきたものでしょう。

しかしながら葬列という慣習は、霊柩車の普及によって、大正から昭和にかけての短い期間に都市部を中心にして一挙に無くなってしまいます。墓地や火葬場の遠隔化によって、徒歩で墓地や火葬場に行くための時間がかかりすぎること、また葬列が路面電車や自動車などの運行を大いに妨げたことが、その理由として考えられます。

現在の霊柩車

最近では宮型霊柩車に代わって、洋型霊柩車や寝台車タイプの霊柩車の普及がめざましいものがあります。クラウンやフーガなどを改造し、屋根にレザーの装飾を施すことも多いです。宮型よりもシンプルなデザインで、一見すると霊柩車と分からないところも特徴といえるでしょう。

寝台車のバン型霊柩車で、ノアやアルファード、ヴェルファイアなどの後部座席を外し、ストレッチャーを搭載しています。洋型と同じく街でよく見かける霊柩車です。

昨今では、洋型霊柩車と同じくらい、出棺用霊柩車として使用されています。定員は運転手を含めて2人乗りです。一般車と見た目がほとんど変わらないため、自宅や病院付近に停まっていても不自然ではありません。

霊柩車を見たら親指を隠す習慣

「霊柩車を見たら親指を隠しなさい」と言われたことがある方が、以前は多かったと思います。霊柩車を見たら、通り過ぎてみえなくなるまで親指を隠さないと「親の死に目に会えなくなる」という説がありました。以前はよく耳にした話ですが、最近はあまり聞かなくなったと思います。

また、霊柩車は「縁起が悪い」とも考えられていたようです。このような霊柩車にまつわる迷信が生まれた背景には、どのような理由があったのでしょうか。

親指を隠す風習は江戸時代から

霊柩車が導入された大正から昭和以前にも、葬列を見たら親指を隠すという風習がありました。

「死」と「親指を隠す風習」を結びつけるものとして確認できる最も古い起源は江戸時代です。国学者の小山田与清(おやまだ・ともきよ)が著した『松屋筆記』という随筆(雑学本)にあります。

その本の中に「親指の爪と肉の間は特別な場所で、左手は魂門(こんもん)、右手は魄戸(はくこ)と呼ばれるそうです。この場所から、人の魂魄(こんぱく)が出入りすることから、「畏怖のときにはこの場所を他の指で握り隠す」という内容の記述が見られます。

人が亡くなって間もない期間はまだ成仏しておらず、霊魂がまわりを漂っていて、その霊魂は人間の親指の爪の間を出入りすると考えていました。そこから、死を直接的に連想させる葬列というモチーフが選ばれ、葬列を見たら親指を隠すという風習が生まれたそうです。

元々は自分を守る為の行為が時代とともに親指と親が結びつき、縁起が悪いと言われ始めたのでしょう。そして、霊柩車が普及するにつれて、親指を隠す行為も霊柩車へと推移していきました。

最近は宮型霊柩車が減少していますが、宮型霊柩車の減少の一因には先ほども説明した通り「火葬場による近隣住民への配慮」があります。ひと目で葬式を連想させる派手な霊柩車が自宅付近を頻繁に走っていることは不吉であるため、火葬場の近くに住む住民にそう思われないよう配慮しているということです。

派手な霊柩車がなくなって、親指を隠すという所作も忘れられていくものだとは思いますが、死を畏怖する気持ちは現代でも変わらないのでしょう。

時代とともに変化し今に至る霊柩車

故人の納められた棺を火葬場へ運ぶための車両が霊柩車です。近年は、いわゆる「霊柩車」としてのイメージが強い派手な装飾が施された宮型霊柩車は、人々のライフスタイルや価値観の変化などによって減りつつあります。一方で、洋型霊柩車やバン型霊柩車などの利用が増加傾向です。

時代とともに霊柩車のスタイルも変化しましたが、日本における葬儀の文化として今も残り続けています。今後も時代の変化によって、新たな霊柩車のスタイルが生まれるのかもしれません。