引導の意味とは?宗派ごとの違いも紹介

2022.10.05

葬儀の終盤には、引導と呼ばれる儀式が行われます。「引導をわたす」という言葉の意味をご存じの方は多いでしょう。しかし、葬儀における引導の意味をご存じの方は少ないかもしれません。

そこで今回は、葬儀における引導の意味を解説するとともに、宗派ごとの引導についても解説します。引導が葬儀において、どのような意味合いを持つものなのか、この機会にご確認ください。

葬儀における引導の意味とは

引導とは、故人様の魂が極楽浄土へ無事たどり着けるように願う儀式です。引導は通常、葬儀の最後に執り行われます。

我々は「人の身体は物質である」と考えているため、亡くなった時点で命は終わりだと思うかもしれません。しかし、我々の心の中には魂があり、命、生命、魂、エネルギーだと古来より伝えられています。

諸説ありますが、人が亡くなると身体から魂が抜けて、2~3メートル上空から自分自身を見下ろすようです。もちろん、他の方々には見えませんし、自分にしか分からない世界なのでしょう。

このとき初めて物質の世界から魂の世界へと向かい、右手の方向から光を浴び「人生はどうであったか」と質問され、これまでの人生を思い出し、達成感や後悔について思いをはせるようです。


来世で懺悔や後悔をやり直すことを「輪廻転生」と呼びます。再び人として生まれ変われるよう、中陰(四十九日までに次の生命を受けるための期間)の期間を過ごし、魂を浄化して極楽浄土に行ける導きのお手伝いをしてもらう最初の作法が引導です。

なお葬儀とは、引導を行うために行う仏教の作法といえます。

引導の際に唱える法語とは

引導の際、僧侶が葬儀で唱える言葉は、法語と呼ばれています。法語は仏教において、正法を説く言語といわれており、引導の際にも用いられます。

法語は「喝」「露」など、大きな声で故人様の魂を鼓舞することがある点も特徴です。故人様が法語を聞くことで、ご自身の死を認識することによって、仏の元へと導かれやすくするという願いが込められています。

宗派による引導の意味や流れ

仏教の宗派によって、引導の意味や流れは異なります。主な宗派における、引導の意味や流れを確認しておきましょう。

真言宗の引導

真言宗の教えは、我々自身の身と心のまま、すぐに仏様と一体になると説かれる即身成仏です。真言の作法を修め手で印を結び口に真言を呪し、心の中に仏様と同じであると想うことにより、今までの罪深き行いが消滅され生老病死の苦しみから解き放たれるのが、真言宗の引導だといわれています。

真言宗の引導を行う流れは、以下の通りです。

・三礼(さんらい):ご本尊に対して3回礼拝して着座
・普礼(ふらい):導師がすべての仏様に対して礼拝
・焼香:香を手向ける
・出次第(しゅっしだい):法具を整え、次第を手にして香に薫じて開く。導師作法の始まりとして、リンを鳴らす。
・塗香(ずこう):清らかな香を体全体に塗り、観ずることで身を清浄に保つ
・護身法(ごしんぼう):仏法の妨げとなる邪悪から身を護るために、導師が印と真言を結誦する
・加持香水(かじこうずい):仏様を守護する金剛杵と真言により香水を清める
・灑水(しゃすい):お加持した香水を自身と壇上、会場内外へ潅ぐ
・引導大事(いんどうだいじ):導師が故人様に引導するうえで、大切な文と真言授与を許可する
・懺悔文(ざんげもん):故人様の行いを懺悔し、罪深き行いを悔い改めるための文を捧げる
・三帰依文(さんきえもん):故人様が仏法僧を心の拠り所とし、帰依するための文を授与
・戒名授与:これからも仏様の決まり事を守り続けていくために、故人様が戒名を得る
・浄土変印明(じょうどへんいんみょう):清らかな仏様のもとに故人の身と心を移すための印と真言を授与
・発菩薩心印明(ほつぼだいしんいんみょう):仏様の教えを守り続け、精進し続けることを誓うための印と真言を授与
・三味耶戒印明(さんまやかいいんみょう):仏様と等しく安静な境地に住するための印と真言を授与
・破地獄印明(はじごくいんみょう):今までの行いにより、苦難に遭ったとしてもその苦難を打ち砕く印と真言を授与
・佛眼佛母印明(ぶつげんぶつもいんみょう):自身に備わっている仏様になるための可能性を気付かせ、仏智の眼を目覚めさせるための印と真言を授与
・灌頂(かんじょう):故人様の頭頂に清浄な水を灌ぐことで、仏様そのものになる
・金剛杵(こんごうしょ):仏様の境地に住する障害となるものから身を護るために、密教伝来の法具を導師から授与
・普利衆生印明(ふりしゅじょういんみょう):苦しむ人が仏様の智慧の位に住したいと願ったとき、父母に守られるが如く、すぐに仏様の境地に生まれ変わり住せる印と真言を授与
・六大印明(ろくだいいんみょう):宇宙にあまねく満ちわたる六大(地水火風空の五大に識大を加えたもの)の印と真言を授与
・オン字咒(おんじしゅ):本尊の三味に入り一体となるために、21のオン字を誦す
・真言秘印明(しんごんひみついんみょう):すべての仏戒決まり事を導師より授かった故人様が、もっとも大事な印と真言を授与。曼荼羅世界に入り、仏様と一体になるための印と真言を結ぶことで、仏世界の一員になれる
・即身成仏秘文(そくしんじょうぶつひもん):導師が故人様に「授かっていない者には決して漏らしてはいけない秘密の印明をすべて授けました」という、お経を唱える。故人様が願うことで、その身のまま生老病死の苦しみから離れて、安樂な仏様の世界に移行できる
・血脈(けちみゃく):真言密教の法が、大日如来から弘法大師様に伝わり、導師を介し故人様へ脈々と受け継がれていることを血脈の授与によって証明
・一字金輪呪文(いちじきんりんじゅもん):導師、故人様が、無事に法の成就されるよう一字秘密の呪文を授与

次第を香に薫じて閉じ、後の護身法を結誦して導師の作法は終了です。

真言宗の法を弟子に授与することを、写瓶(しゃびょう)と呼びます。写瓶とは、瓶に入った水を空の瓶にすべて移すかのように、師が弟子へ真言宗の大切な法を授けるという意味です。

引導法だけを、独立して行うことはありません、なぜなら引導を渡す前に、その立場にある導師が、先に自身とご縁を結んでいる仏様と感知感応することが大前提だからです。その上で引導の作法を修する必要があります。

曹洞宗の引導

曹洞宗の引導は、故人様を迷界から悟りの道へ導くための試みだといわれています。

曹洞宗の葬儀で引導を行う流れは、以下の通りです。

・剃髪の儀(ていはつのぎ):死者が仏門に入るための受戒作法のひとつ。導師が前で香をたき、合掌して偈を唱える
・授戒作法:懺悔文を唱え、次に三帰戒を授ける。以上、故剃髪・授戒して仏教者にしてから、狭義の葬儀が始まる
・入龕諷経(にゅうがんふぎん):入龕は棺に納める儀式。実際は、すでに納棺されているため、陀羅尼(ダラニ)と回向文を唱える
・大夜念誦(龕前念誦:がんぜんねんじゅ):以前、大夜は葬儀前日の夜に行なわれましたが、今は入龕諷経に続いて読まれる
・挙龕念誦(こがんねんじゅ):棺を起こして。葬場におもむく前に唱えられる
・引導法語:導師が法炬(たいまつ)を手に取り、右回り、左回りと円相を描く。次に払子(ほっす)で引導法語を唱える。引導法語は一字一喝により、故人様を仏の世界に入らせることを目的とする
・山頭念誦:山頭とは火葬場のこと。この念誦では、故人様に荼毘(だび)することを告げ、すみやかに悟りを願う
・回向文:自分の行った良い行いの功徳を他人にめぐらし、分かち与えること。これにより、経典の功徳を故人様に振り向け、その力を弔いとする

臨済宗の引導

臨済宗の引導には、故人様の魂を浄土へと導く意味があります。

臨済宗の葬儀における、引導の儀式を行う流れは以下の通りです。

・剃髪:剃髪用の剃刀は棺の上に置き、「剃髪の偈」を三唱する
・懺悔文:故人様が生前に犯した行いを深く反省し、成仏できるように願う  
・三帰戒文:仏の教えを受け、修行者に帰依することを誓う
・三聚淨戒(さんじゅうじょうかい)十重禁戒(じゅうじゅうきんかい):酒水器に移した法性水を棺に注ぐ、お清めの儀式
・血脈授与:香を焚き、霊前に血脈を安置する
・引導:仏様の弟子になった故人様を、仏の世界へ導く儀式  
・龕前念誦:大夜念誦とも呼ばれる、はじめに「龕前念誦」を唱え、次に「十仏名」を唱和。さらに「大悲呪」を読誦し、回向文を唱える
・鎖龕諷経(さがんふぎん):鎖とは閉ざすこと。棺の蓋をするときの諷経。初めに「大悲呪」を読誦し、次に回向文を唱える
起龕(きがん)念誦:起龕とは龕(棺)を起こして葬場に向かうときに読み上げるもの。「起龕念誦」を唱え「大悲呪」を読誦し、次に回向文を唱える。念誦を終え、葬場に向かう
・山頭念誦:山頭とは葬場のことで、火葬あるいは土葬に際して念誦を唱える。これにより故人様が浄土に至ることを助ける
・引導(いんどう)法語:導師によって、故人様を浄土へ送りだす引導法語を唱える
・荼毘(だび)諷経

日蓮宗の引導

日蓮宗の引導も、故人様がこの世から浄土へ導く意味があります。

日蓮宗の葬儀における、引導の流れは以下の通りです。

・道場偈:諸仏をお迎えし、礼拝 
・三宝礼:仏法僧に礼拝
・勧請:釈迦、菩薩、宗祖などをお迎えする
・開経偈:これから読む経典を讃える
・読経:「妙法蓮華経方便品」を読経
・唱題:南妙法蓮華経を唱える
・咒讃(しゅさん):節をつけた諸仏で讃える
・開棺:中啓(扇子)で棺を軽く打つ 
・引導文:導師が前に出て、払子(ほっす)を振り、故人様が霊山に行ける旨を述べて安心させ、法華経の功徳を讃える
・祖訓:宗祖の文章を読む 
・唱題:「南無妙法蓮華経」の題目を十遍から百遍唱える
・宝塔偈:法華経の功徳を讃える
・回向:法要の功徳を回らし、現世の安穏と死後、良い所に生まれることを祈念
・四誓・三帰のお経

天台宗の引導

天台宗の引導は、故人様を仏果に引導する意味を持ち、円頓戒を授けて受戒成仏させるものといわれています。

天台宗の葬儀における、引導の流れは以下の通りです。

・列讃(れっさん):仏の臨終を讃える意味で、如来の四智を梵語によって讃える   
・光明供修法(こうみょうくしゅほう):阿弥陀如来の来迎を得て、故人様を仏とする作法を実施
・九条錫杖(くじょうしゃくじょう):杖を振って声明を唱える
・随法回向(ずいほうえこう):法界に供養回向する    
・鎖龕(さがん):棺の蓋を閉ざす儀式
・起龕(きがん):棺を送り出す儀式
・歎徳(たんどく):故人様の業績を讃える
・引導:下炬(あこ)文、導師は手に松明をもって空中に梵字と円を描く。故人様の徳を讃える文の唱和
・法施(ほうせ):経文を回向。念仏または光明真言を唱える
・回向

浄土宗の引導

浄土宗では、引導を渡すことを下炬引導(あこいんどう)と呼び、故人様を浄土に導くという意味があります。下炬とは火葬を意味し、点火という意味です。

浄土宗の葬儀における、引導の流れを確認しておきましょう。

・香偈(こうげ):香を焚く
・三宝礼(さんぽうらい):仏・法・僧の三宝に頼み、力を得る
・奉請(ぶじょう・ほうぜい):仏様を式場にお迎えして願をかける
・懺悔偈(さんげげ):仏様に生前の罪を懺悔する
・作梵(さぼん):四智讃(しちさん)のお経を唱える
・引導下炬(いんどうあこ):浄土宗の葬儀でもっとも大切な儀式。2本の松明、または線香を持ち、1本を捨て残りの1本で円を描き、下炬引導文を述べる。その後、念仏を十篇唱える
・開経偈(かいきょうげ):教義真義の会得を願う
・読経:「四誓偈」か「仏心観文」の経文を読経
・念仏一会(転座):仏様に救われたことに感謝し、数多くの念仏を唱える
・総回向(そうえこう):阿弥陀仏の功徳により、往生を願う
・総願偈(そうがんげ):仏道修行の四願を誓い、往生を願う
・三身礼(さんじんらい):阿弥陀仏への信仰を誓う
・送仏偈(そうぶつげ):仏様を送る

浄土真宗の引導

浄土真宗(西・東)の葬儀では、引導は行われません。

浄土真宗では、人は亡くなってすぐに阿弥陀如来の力によって極楽浄土に導かれ、仏様になるという考えの方があります。これが「即身成仏」です。

他の宗旨には霊や魂という考え方があり、四十九日までの間に修行の旅に出るといわれていますが、浄土真宗にはこうした考え方がありません。故人様に何かをしてあげるというよりは、極楽浄土へ行けるよう阿弥陀如来様に託す他力本願の考え方といえます。

つまり、死後浄土へ行くために成仏の祈願は不要なので、引導が行われないということです。

まとめ

考え方などに違いはありますが、どの宗派においても、引導は故人様が無事浄土へたどり着けることを願う儀式といえるでしょう。大切なご家族を想う気持ちは、どの宗派でも皆同じです。故人様に引導を渡す際には、参列者の心をひとつにしてお見送りしたいものです。