世界最古の宗教ゾロアスター教(拝火教)とは?

2022.07.04

ゾロアスター教と聞くと「歴史の授業で勉強した」という方が多いのではないでしょうか。ゾロアスター教は拝火教とも呼ばれ、世界最古の宗教といわれています。

しかし、ゾロアスター教については、我々日本人の多くがあまり深くは知らないというのが現状でしょう。そこで今回は、ゾロアスター教がどのような宗教なのか、起源や教えなども含め解説します。

ゾロアスター教とは

ゾロアスター教は世界最古の宗教の1つに数えられ、古代ペルシア(現在のイラン)の宗教として始まりました。また、世界3大宗教(一神教)の基礎になっていることでも知られています。ちなみに、日本の自動車メーカー「マツダ」の名前にも由来している宗教です。

本章では、ゾロアスター教の起源にも触れながら、どのような宗教なのか解説します。

ゾロアスター教の起源

ゾロアスター教(拝火教)とは、ザラスシュトラが30歳頃に啓示を受け「すべてを創造しすべての善の源である唯一神のアフラ・マズダ(善神)が存在する」と説いた世界最古の宗教です。

ゾロアスター教の中核となるのが、アフラ・マズダと悪、苦痛、病気、死の源泉とされている宿敵アンラ・マンユ(悪魔)との戦いでしょう。ただし、アンラ・マンユはアフラ・マズダと同等の立場にいるわけではありません、あくまでも、ゾロアスター教の最高神はアフラ・マズダとされています。両者の戦いは、ほぼ互角で数千年にわたって繰返されてきましたが、預言者ザラスシュトラの手によって、戦いの均衡が善に有利に傾いたそうです。

ゾロアスター教では、アフラ・マズダの後に3人の救世主が登場すると信じられています。3人目の救世主が大決戦の末に悪に勝利し、アラン・マンユが追放され、アフラ・マズダの支配する世が訪れるとされており、信者達はその日を待望しているそうです。

ソロアスター教の教え

ゾロアスター教の教えは善の概念に立脚しており「善悪」を二元論とした思想に重きが置かれています。全知全能の神でゾロアスター教の最高神アフラ・マズダが、悪との戦いに勝利し、理想の世界がやってくるという教えです。ちなみに、創始者である預言者・ザラスシュトラの名前を取って、ゾロアスター教と名付けられています。

当初は、わずかの信者しか集まらなかったそうです。しかし、当時の王がゾロアスター教を国教化したことによって、ペルシア北部の支配者ビシュタースパ王による改宗をきっかけとして、急速に広まったそうです。また、紀元前6世紀に誕生したアケメネス朝も、ゾロアスター教を国教と定めたため、信者が急速に増えていきました。

紀元前2世紀には、パルティア王国の人々によって聖典「アヴェスター」が編纂されています。ゾロアスター教の教えは、その後のササン朝でも国教化されたことで、拡大していくかのようにみえましたが、7世紀半ばにイスラム教がペルシアに広まり影響力が弱まりました。

そのため、昨今のゾロアスター教は少数派の信仰に留まっており、イランやインドなどの一部の地域に信者を抱えるのみとなっています。

ゾロアスター教の二元論

ゾロアスターの二元論とは、世界を善悪2つの事象で捉えて解釈するという考え方です。

アフラ・マズダ(善神)とアンラ・マンユ(悪:アーリマンとも呼ばれる)という、善悪の神様がいることや、以下で紹介する天使や悪魔なども多数存在するため、ゾロアスター教は多神教と思われることがあります。しかし、実質的にゾロアスター教は、最高神アフラ・マズダの1神教です。

ゾロアスター教の7大天使

ゾロアスター教にはアフラ・マズダの下に、7大天使(アムシャ・スプンタ)と呼ばれる神様が存在します。それぞれの大天使の特徴は、以下の通りです。

・アシャ:日の守護神として、虚偽の悪魔ドゥルジに対峙。宇宙を正しく秩序づける正義に由来し、天体の運行や季節の移り変わりなど自然現象の秩序を司る大天使

・アムルタート:その名は不死を意味し、アフラ・マズダの子。植物の守護天使

・ウォフ・マナフ:善なる意思の意味があり、動物界(家畜)の守護神である。アフラ・マズダの言葉を人類に伝達する役割を担っている。人間の言行を常に生命の書に記録し、やがて訪れる最後の審判で読み上げるといわれている

・クシャスラ:理想的な領土と王国(統治とも)に由来し、天の王権を象徴する天空の守護神。アフラ・マズダによる善の王国の建設のために尽力する、金属や鉱物の守護神

・スプンタ・アールマイティ:女性天使で、献身と敬虔の名の通り、宗教敵調和や信仰心の強さ、さらに信仰そのものを表わす。大地の守護神でもあり、背教と推測を司るタローマティと対立

・スプンタ・マンユ:聖霊を意味し、人類の守護神

・ハルワタート:完全という意味を表す大天使で、水の守護神を務める。アムルタートに協力して、地上に雨を降らせる

ゾロアスター教の7大悪魔

ゾロアスター教ではアンラ・マンユを含めた7大悪魔と呼ばれる神々が存在しています。それぞれの悪魔の特徴を紹介します。

・アンラ・マンユ:大魔王や悪の最高神、破壊霊などといわれ、悪の創造や破壊活動をなす。虚偽、狂気、凶暴、病気など、あらゆる悪や害毒を創造し、アーリマンとも呼ばれる

・アエーシュマ:人間を悪行へとそそのかす怒りと欲望を司る悪魔

・アジ・ダハーカ:地上では人間の姿で善人をそそのかす残忍でずる賢い悪魔。3つの頭と3つの口、6つの目をもつ怪物で口から毒や炎を吐き出す

・ジャヒー:月経の苦しみを与えたとされる。売春婦の支配者といわれる女悪魔

・タローマティ:アヴェスター語で背教を意味する悪魔。女性天使アールマティと対立関係にある

・ドゥルジ:虚偽や不正義を司り、疫病をもたらす女の悪魔。聖なる火の守護者であるアシャと対立

・バリカー:女呪術師ともいわれる女悪魔

ゾロアスター教の倫理

ゾロアスター教の倫理は基本的に立脚しているため、キリスト教のような原罪概念は存在しません。アフラ・マズダは善神であり、その創造物は人間をはじめとする、すべてが本質的に善であるという考え方です。

善神はその力と善をアンラ・マンユとの戦いへと振り向けます。そして、人間はアフラ・マズダの創造物のひとつであるため、この戦いに与する運命にあるそうです。

人間は誰もが善悪を区別し、道徳的な選択ができる力を持っていなければいけません。道徳的な決断を下し、決断に基づいて自由に行動する力をアフラ・マズダが人間に与えたのは、そのためだと考えられています。

道徳的選択を重んじるゾロアスター教は、故人様の責任と道徳をもっとも重視しする宗教です。例えば、嘘をつかないことや、人に対して物惜しみをせずに愛情を抱くこと、節度のある食事をする、約束を守ることをはじめ、刻苦奨励や目上に対する尊敬、知恵や英知の探求も推奨されています。

ゾロアスター教の伝統・文化

ゾロアスター教の信者は、定時拝礼が勤めです。多くは故人礼拝で、信者は祈りの形をとり、祈りの言葉は聖典「アヴェスター」から引用します。祭司や厳格に信者は1日あたり5回の祈りを捧げますが、多くの信者は朝と夜の2回実施することが一般的です。

一方、儀礼で重視されるのは、7歳〜12歳の間に行われる「ナオジョテ」と呼ばれる儀式です。この儀式で子どもはゾロアスター教に対する信仰を奉じる責任を負い、スドレ(神聖な肌着)とクスティ(白い糸)が授けられ入信します。

この他にも、ゾロアスター教は祝祭が多いことでも知られており、共同体が集まる場では、財の多寡にかかわらず食事を用意して祝宴をあげる点が特徴です。また、お葬式の形として、ゾロアスター教では「鳥葬」が用いられます。

なお、本記事の冒頭で、日本の自動車メーカーマツダ「MAZDA」に由来していると紹介しましたが、こちらは創業者である松田重次郎さんの名字と、英知・理性・調和を司るゾロアスター教の主神のアフラ・マズダに由来するそうです。

ゾロアスター教が拝火教と呼ばれる理由

ゾロアスター教といえば、やはり火が印象的です。礼拝中は火鉢に火を満たし、部屋に煙を充満させて祈りの言葉を唱えることが、礼拝中の重要な行為となっています。この日はアフラ・アズダの神聖な光や活力、真実や法の象徴とされるようです。

これが別名「拝火教」と呼ばれるゆえんですが、火は罪を清める唯一神の象徴のひとつに過ぎないため、相応しい呼び名ではないと考えられています。

まとめ

ゾロアスター教は、世界を善悪という2つの側面で考える二元論に基づいた信仰をもつ、世界最古の宗教です。善神アフラ・マズダが悪魔アンラ・マンユを打倒し、理想の世界が訪れるという教えを信仰しています。

日本ではほとんど馴染みがないゾロアスター教ですが、現在はイランで小規模な信徒教団によって信仰されているようです。ちなみに、渋谷のレストランである「カールヴァーン トウキョウ」では、ゾロアスター教徒に伝わる香り高くリッチなカレー料理「ゾロアスターカレー」がいただけるようなので、興味のある方はぜひ食してみてはいかがでしょうか。