仏教におけるご本尊とは?宗派別の違いも解説

2022.10.04

仏教において、お寺や仏壇にはご本尊と呼ばれるものが存在します。ご本尊は彫刻や絵画など、さまざまな形のものがあり、中でも仏像は一般的でしょう。

ご本尊は仏教の宗派によっても違いがあるので、ご自宅の仏壇や菩提寺にあるご本尊がどのようなものなのかを知っておいたほうがよいかもしれません。今回は、仏教におけるご本尊がどのようなものか解説しつつ、宗派別の違いなども紹介します。

仏教のご本尊とは

ご本尊とは、仏教系の各寺院や信徒の仏壇などにおいて、もっとも重要視される信仰対象(物)のことです。宗旨・宗派により、ご本尊の対象となるものは異なります。

代表的なご本尊としては、仏像や宗教的絵画、掛け軸(仏絵や曼荼羅など)です。また書などのほかに、如来や菩薩、観音様などが、本尊として安置されている場合は多いでしょう。同じ宗派のお寺であっても、信仰している仏様は同じででも、祀り方が異なるケースは散見されます。

脇侍には如来や明王、宗派の開祖、宗派に貢献したお坊様などを祀ることが一般的です。

広く知られるご本尊としては、東大寺の大仏(毘盧舎那仏)や興福寺の釈迦如来などが挙げられます。

東大寺の大仏のように常時拝観できる場合もありますが、数年(あるいは数十年・数百年)に一度、一定期間のみ御開帳される秘仏をご本尊として祀る寺院もあります。

ご本尊を祀る目的

仏教においてご本尊を祀る本来の目的は、人々の信仰対象とするためです。教えの中心になるものとして、ご本尊はお寺や仏壇に祀られます。宗派によってご本尊の形はさまざまですが、モノではなくヒトである場合もあるようです。

一方、仏壇に祀るご本尊には、故人様やご先祖様と対話する対象としての意味があります。場合によっては、ご遺族の悲しみを癒すために、ご本尊と語らうこともあるでしょう。

もともと仏壇は、故人様の供養の場として捉えられていました。しかし長い歴史を経る中で、故人様のご冥福を祈りつつご遺族の悲しみを癒す、祈りの場としての役割を持つようになったのでしょう。

ご本尊を祀る方法

ご本尊の祀り方には一定のルールがあります。基本的なご本尊を安置する方法と、魂入れを行う開眼法要について確認しておきましょう。

ご本尊を安置する方法

ご本尊を安置する場合は、中央に飾ることが基本です。仏壇に仏像などを安置する場合は中央の台に飾り、掛け軸の場合は中央奥の壁にかけます。

「脇掛け(わきがけ)」と呼ばれる掛け軸も配置することで、より厳格に祀ることが可能です。なお、脇掛けの種類は宗派によって異なるため、適切なものを選んで飾りましょう。

ご本尊の開眼法要

ご本尊を仏壇やお寺に安置する前には、開眼法要が必要です。開眼法要とはご本尊に魂を入れる儀式のことで、檀家の僧侶などが実施します。

つまり、開眼法要を実施することによって魂が宿り、ご本尊は祈りの対象として機能するようになるわけです。ご本尊の開眼法要を実施するタイミングは、安置前であればいつでも構いません。ただし、故人様の位牌を仏壇に納める際にも開眼法要は必要なので、同時に行うと効率がよいでしょう。四十九日法要や1周忌法要などのタイミングで実施するケースが多いです。

開眼法要の際、僧侶に渡すお布施の相場は1~3万円程度ですが、地域やお寺によって異なるため、事前に確認しておくと安心でしょう。

ご本尊として祀られる仏様

仏様はお経の中に出てくる登場人物で、それぞれに役割があります。お寺にはお釈迦様、観音様、不動明王、四天王などの仏像を祀ることが一般的です。

これらはすべてお経に登場する仏様を、具現化したものだといわれています。つまり仏像は、お経に書かれたお釈迦様の教えを、わかりやすくするための登場人物といえるでしょう。

物語の登場人物に主人公や脇役がいるように、仏様にもそれぞれ決まった役割があります。

仏様を役割によって「如来」「菩薩」「明王」「天部」の4つに分けることが可能です。それぞれの仏様について解説します。

如来

如来は、仏の真理の世界から来た者といわれており、完全な悟りを得た仏の中の仏です。

最初の如来像は、悟りを得たお釈迦様でした。昔の人々は、苦行の末に悟りを得て仏様となったお釈迦様は、普通の人間とは違う特徴を持っていていたはずだと考えられていたそうです。

「体が金色に輝き眉間から光を発する」「知恵によって頭頂部は盛り上がっている」「髪の毛がカールしている」「指の間には水かきがあり手指のサインで教えを示す」「足の裏に教えを示す模様がある」など、如来には32の特徴があるといわれていました。

その結果、王子の地位や財産を捨てて出家したことから、衣一枚を身に着けているだけの釈迦如来像が誕生したそうです。それを真似て病気のときに救ってくれる「薬師如来」、極楽浄土に生まれ変わらせてくれる「阿弥陀如来」など、多くの仏像が作られました。

この他にも「釈迦如来」や「大日如来」「毘盧遮那如来」などの如来が有名です。

菩薩

菩薩(ぼさつ)は悟りを修行する者です。如来の弟子であり、慈悲の心で人々を救う存在といわれています。

菩薩像は心優しい王子様時代のお釈迦様をモデルにしており、宝冠や胸飾り、腕輪など、たくさんのアクセサリーを身に着けているのが特徴です。手には清らかさを表す水瓶や蓮華のつぼみなどを持っています。

菩薩とは如来になるために悟りを求めて修行する者ですが「この世に苦しみ悩んでいる人がいるかぎり、私は如来にならない」と誓いをたて、自らの意思で菩薩の地位に留まっている慈悲の仏様ともいえるでしょう。

「弥勒菩薩」や「文殊菩薩」「普賢菩薩」「観音菩薩」「勢至菩薩」「地蔵菩薩」などが有名な菩薩です。

明王

燃え盛る炎をバックに恐ろしい表情をした明王(みょうおう)は、煩悩にとらわれ如来の教えに従わない人々を、善に導く役目を担う存在です。弁髪や、燃え盛る激しい怒りによって髪の毛が逆立った怒髪になっている明王もいます。いくつもの顔や手に持った複数の武器、髑髏をつないだ首飾りや蛇を巻き付ける姿は、見る者を圧倒するでしょう。

明王は、弘法大師(空海)によって日本に伝えられた密教の経典に登場します。密教とは、言葉通り秘密の仏教と呼ばれるものです。真言(如来の真実の言葉)を唱えることによって、もっともご利益をいただける仏様が明王とされています。

有名な明王としては、大日如来の化身とも言われる「不動明王」をはじめ、「孔雀明王」「愛染明王」「烏枢沙摩(うすさま)明王」などが挙げられます。

天部

天部とは、天上界に住む仏様を守る守護神です。お釈迦様が誕生する前から信仰されていた、古代インドの神々が仏教の守護神になったといわれています。

仏教がインドから中国を経由して日本に至るまで、各地で信仰されていた神々を取り込んでいったため、その姿はインド風や中国風などさまざまです。

七福神であれば「毘沙門天」は甲冑姿の武人、「弁財天」は羽衣を身にまとった天女、「寿老人」は長い髭を持つ老人というように、男女の性別が明確で人間に近い姿をしている点が天部の特徴です。

神々が住む天界は、キリスト教でいわれる天国とは違います。人間界に近いところにあり、天の神々は福徳を与えてくれる仏様です。

梵天や帝釈天、四天王、阿修羅、歓喜天、鬼子母神、金剛力士、七福神などが、一般的に知られている天部です。

お釈迦様の弟子や仏様の従者

お釈迦様には、優れた弟子である「十大弟子」がいます。また、修行僧の最高位を「阿羅漢」と呼び、十六羅漢、五百羅漢が代表的です。阿羅漢のトップは「賓頭盧尊者」(びんずるそんじゃ)と呼ばれており、体のどこかが痛いときに、その像の同じ部分を撫でることによって、治るといわれています。

如来や菩薩、明王にも従者や仲間がいます。本尊の仏様の両脇にまつる従者を「脇侍(わきじ)と」、その他の従者が「眷属(けんぞく)」です。竜王や夜叉などさまざまで、仏教の守護神とされる「天竜八部衆」や薬師如来に仕える「十二神将」、千手観音に仕える「二十八部衆」などが広く知られています。

仏教における各宗派のご本尊

宗派によってもご本尊は異なります。ここでは、仏教における主な宗派のご本尊を確認しておきましょう。

天台宗のご本尊:規定なし

天台宗のご本尊には、特に決まりがありません。ただし、阿弥陀如来がご本尊であるケースは多いようです。釈迦如来がご本尊の場合もあります。

天台宗の脇侍は左側が伝教大師(最澄)、右側に天台大師(智顗)を祀ることが特徴です。

真言宗のご本尊:大日如来

真言宗のご本尊は、大日如来です。脇侍は左側に不動明王、右側には弘法大師(空海)が祀られます。

日蓮宗のご本尊:大曼荼羅

日蓮宗のご本尊は、日蓮の創始した曼荼羅図である「十界曼荼羅」です。曼荼羅の中央には「南無妙法蓮華経」の題目を大書、その周囲に十界を書き、これにより「法華経」の真実を図示したといわれています。

日蓮宗の脇侍は、左側に大黒天、右側には鬼子母神を祀るのが特徴です。

浄土宗のご本尊:阿弥陀如来

浄土宗のご本尊は阿弥陀如来です。脇侍は、左側に元祖圓光大師(法然上人)、右は高祖善導大師を祀ります。

浄土真宗本願寺派のご本尊:阿弥陀如来

浄土真宗での(西)と呼ばれることが多い、浄土真宗本願寺派のご本尊は阿弥陀如来です。

脇侍は、左側に蓮如上人、右側には親鸞聖人が祀られます。

真宗大谷派のご本尊:阿弥陀如来

浄土真宗(東)や東本願寺派とも呼ばれる、真宗大谷派のご本尊は阿弥陀如来です。脇侍は左側に九字名号、右側には十字名号(蓮如上人・親鸞聖人の場合もあります)が祀られます。

時宗のご本尊:阿弥陀如来

時宗のご本尊は、舟形の光背が付いた阿弥陀如来です。脇侍は左側に一遍上人、右側には真教上人を祀ります。

臨済宗のご本尊:釈迦如来が一般的

臨済宗のご本尊に特定の決まりはありませんが、釈迦如来を祀ることは多いです。脇侍は左側に花園法皇、右側に開山無相大師を祀ります。(妙心寺派の場合)

臨済宗は各派に分かれおり、左側に観世音菩、右側に薩達磨大師を祀る場合も多くあるようです。

曹洞宗のご本尊:釈迦如来

曹洞宗のご本尊は釈迦如来です。脇侍は左側に太祖瑩山禅師、右側には高祖道元禅師を祀ります。

黄檗宗(おうばくしゅう)のご本尊:釈迦如来

日本三禅宗のひとつである黄檗宗のご本尊は、釈迦如来(座釈迦)です。脇侍は左側が陰元禅師、右側は達磨大師が祀られます。

融通念仏宗のご本尊:十一尊天得如来

融通念仏宗のご本尊は十一尊天得如来です。阿弥陀如来を中心に音菩薩、勢至菩薩、光明王菩薩、宝蔵菩薩、徳蔵菩薩、三昧王菩薩、薬上菩薩、虚空蔵菩薩、月光菩薩、日照王菩薩の10尊の菩薩で構成されています。

脇侍は左側に陰元禅師、右側に達磨大師を祀る点が特徴です。

華厳宗のご本尊:毘盧遮那如来(びるしゃなにょらい)

華厳宗のご本尊は、奈良にある東大寺(大本山)の大仏様としても有名な毘盧遮那如来です。

毘盧遮那如来の場合、脇侍は如意輪観音と虚空蔵菩薩がよく祀られます。

法相宗のご本尊:釈迦如来、薬師如来

道昭を開祖とする法相宗のご本尊は、総本山興福寺が釈迦如来、総本山薬師寺は薬師如来です。

律宗のご本尊:規定なし

律宗のご本尊には、特に決まりがありません。唐招提寺の金堂には、廬舎那仏坐像、千手観音立像、薬師如来立像、梵天立像、帝釈天立像、四天王立像が祀られています。講堂には弥勒菩薩坐像、持国天立像、増長天立像、礼堂には大日如来坐像が安置されています。

壬生寺には地蔵菩薩、法金剛院には阿弥陀如来が安置されているなど、多様な仏様を祀ることが特徴です。

まとめ

ご本尊は仏教における信仰の中心となるものです。しかし、長い歴史を経て、故人様やご先祖様と対話をしたり、悲しみを癒したりする対象として扱われるようになりました。

自宅では、仏壇などの中心に本尊を祀り、故人様の位牌などを安置することが一般的です。ご本尊である仏様たちは、大切なご先祖様や皆様を幸せに導いてくれることでしょう。