お葬式で配られるお清め塩とは?習わしや使い方を解説

2022.03.01

お葬式に参列した際、会葬礼状や香典返しなどと一緒に「お清め塩」として少量の塩の入った袋を渡されることがあります。何気なく使用している「お清め塩」ですが、その必要性について考えたことがある方は少ないかもしれません。

そもそも清め塩にはどのような意味があるのでしょうか。今回は、なぜ「清め塩」を使用するのかについて考えていきたいと思います。

お清め塩の由来

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「お清め塩」とはもともと神式の神葬祭(神式の葬儀)の際に用いられてきました。神式葬儀には「穢れ(けがれ)」と「先祖崇拝」の二つの大きな概念があります。

「穢れ」とは生命力が減衰した状態のことをさし「気が枯れている」と言い換えることも可能です。悪い状態、つまり死を穢れと捉え、お祓いをすることで清めるものといわれています。そのため、神葬祭に参列した際、死穢(しえ)に関わった場合には、家に穢れを持ち込まないよう身を清めるために使用されてきました。

この場合の穢れとは、故人の霊を祓うという意味ではなく、人の死に際して寄りついてくる「邪気」を示しています。神葬祭を執り行うことで、負のできごとが起きた状態を清め、日常へ戻すという意味があったそうです。こうした考え方から「お清め塩」を用いている歴史があります。

仏教の色濃い影響

仏教では死を穢れとして扱わないため「清める」という慣習はありません。しかし、今日までに参列した仏教の葬儀で、お清め塩をもらったという方も多いことでしょう。その理由は、日本の伝統風俗では神仏を区別せずに儀式を行ってきたため、その名残として、今でも仏教の葬儀の際に塩が配られることが多いのです。

塩による清めの歴史は古事記にまで遡り、「伊邪那美命(イザナミノミコト)」が黄泉の国で腐敗した妻の姿を見て逃げ帰った後、海水で清める「禊祓(みそぎはらえ)」をしたという記録が残っています。塩は海水から作られるため「神様が清めに使った海水から取れる塩にも、清めの効果があると信じられたのでは?」ともいわれているようです。

その後、日本では病気や天災など、負のできごとが起こると、塩で身体を清めるという習慣が多く存在しました。しかし、全国的に清めの行為に塩が使用されていた訳ではなく、地域によっては米や味噌、大豆、魚、餅、団子、豆腐などを食べる、海で手や顔を洗い、口をゆすぐといった行為によってお清めが行われており、現在でも地域よって慣習が残っているところもあるようです。

また世界に目を移すと、キリスト教では旧聖書の中に「あなたがたは地の塩である」と触れられています。現代に残る塩を用いたお清めの例として、相撲取りが土俵で組み合う前に、塩を周りにばらまく行為が挙げられるでしょう。これは神聖なる場である土俵を清めるために行われる行為だといわれています。

なぜ「塩」なのか?

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なぜ「お清め」に塩を使用することになったのでしょうか。先ほど紹介した古事記の記述による推測の他にも、塩の性質が関わっているという考え方もあります。

「塩」には殺菌・消毒の効果がありますが、これは塩自体に腐ることのない性質があるからです。雑菌やばい菌などの存在が知られるまでは、それらによって起こることは邪悪なものの原因とされ、塩をまくことで殺菌、消毒をしていた過去がありました。そのため「塩は邪悪なものを祓う」という考え方が広まったのではないかといわれています。

一方、塩は保存食に広く用いられており、日本では奈良時代、世界では中世ヨーロッパ時代から塩を使用して、肉や野菜を保存することによって人々の暮らしに寄り添ってきました。当初は細菌などの影響で食物の腐敗が進みましたが、邪悪なものが原因だと思われていたため、塩を使用することで腐敗が遅くなり長持ちするようになったそうです。

肉の塩漬けだけでなく、ヨーロッパなどではハムやソーセージなどの加工肉に塩が多く含まれるのも、同様の理由でしょう。

塩に殺菌や消毒の効果がある理由

塩を用いると、なぜ殺菌や消毒の効果があるのでしょうか。これは微生物が塩に水分をとられ増殖しにくくなることが理由です。そのため、塩を用いることで腐敗を遅らせる効果が期待できます。

古代エジプトのミイラ作りにも、塩が使用されたといわれています。日本でもドライアイスなどが普及する以前は、ご遺体の腐敗を遅らせるために塩をふりかける行為が行われていたそうです。

お葬式でもらった清め塩の正しい使い方

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お清め塩は葬式が終わって家に到着した後、玄関に入る前に使いますが、正しい使い方をご存じでしょうか?清め塩は「正しく使用しないと効果が薄れる」といわれているため注意が必要です。ここでは清め塩の正しい使い方や手順を紹介します。

玄関に入る前に使う

お清め塩を使用する際には、まず手を洗うのが正式とされていますが、現代では省略されることが多くなっています。もし葬儀に参列しなかった家族が家にいる場合は、手桶や柄杓(ひしゃく)を用意してもらい、手を洗うのを手伝ってもらうとよいでしょう。

また、清め塩を使う場所は、玄関ではなく玄関に入る前です。家に入る前に清め塩を使うことは知っていても「靴を脱ぐ前に行うのではないのか?」と考え、つい玄関で使ってしまっては、本来の「お清め」の効果がなくなってしまいます。必ず玄関に入る前に行いましょう。

特に集合住宅の通路などは、ご近所さんの目が気になると考え、玄関で行ってしまう方も多いのですが、清め塩は必ず玄関に入る前に行ってください。

正しい順番で体に振りかけ、お清め塩を踏んで玄関に入る

清め塩を体にかける順番は「胸元→背中→足元」です。このとき、清め塩はひとつかみ程度の量を使用します。

その後、服についた清め塩を手で払い、足元に落ちた清め塩を踏んだ後、玄関に入ります。家や同行する家族がいる場合は、自身で振りかけるのではなく、それぞれ家族に振りかけてもらいましょう。

お清め塩を使わずに玄関に入ってしまった場合は?

葬儀は故人と最後のお別れをする場です。そのため、悲しみの中で帰宅した際、つい清め塩を使用しないまま家に入ってしまうこともあるかもしれません。

その場合は、焦ることなく喪服のまま玄関に戻り、清め塩を使用した後、再び家の中に入ればOKです。あまり神経質になる必要はないでしょう。

また、使用する清め塩はほんのひとつかみ程度なので、残ってしまうことが多いです。そのときは、そのまま処分してしまって問題はありません。ただし、清め塩は食用ではないため、料理などには使用しないでください。

お清め塩がある葬式とない葬式

葬式によって清め塩がもらえる場合と、もらえない場合があるので覚えておきましょう。それぞれの葬式の特徴と、塩がもらえなかった場合の対処法を紹介します。

お清め塩がある葬式

神道の葬式の際には、お清め塩が配られる可能性が高いでしょう。神道では「死=穢れ」という思想が根強くあり、邪気を払うためにお清め塩が使われます。

お清め塩は葬式の帰りにもらう会葬礼状に挟まれていることが一般的です。ただし、必ずしも清め塩が配られるわけではないため、同梱されていないこともあるでしょう。

お清め塩がない葬式

仏教の葬式では、お清め塩が配られないケースが多いです。仏教において死は穢れとみなされないため、そもそも清め塩が必要なく、配布されない葬式が増えています。

また、仏教では葬式の後でふるまわれる食事によって邪気を払うという思想があることも、お清め塩が不要だと考えられる理由といえるでしょう。

お清め塩がもらえなかった場合の対処法

お葬式によってはお清め塩がもらえない場合もあるため、どうしても気になる方は、料理などに使用する一般的な塩をお清め塩の代わりにしましょう。お清め塩は海水100%の塩が用いられるため、市販されているもので問題ありません。なお、使い方は葬式で配布されるお清め塩と同じでOKです。

葬式におけるお清め塩以外のお清め

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ここまでお清め塩について紹介してきましたが、葬儀の際に使用する「お清め」はお清め塩だけではありません。通夜・葬儀の際の食事やお酒も、お清めの一つとして考えられています。

その例として通夜の後に「通夜ぶるまい」を行うことがありますが、これを「お清め」と呼ぶ場合もあります。食事には「生きるための活力を得る」という意味があるため、葬儀で落ち込んだ気力を回復させ、邪気を払うという考え方があるそうです。

また、お酒にも邪気を払う力があるとされています。お酒は神が作ったともいわれており、日本の神話でもお清めやお祓いのためにお酒が使用されてきました。

仏教における清め塩の考え方

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お清め塩を使用して葬儀後に身体を清めるという考え方は、実のところ仏教が発祥ではありません。元々は神道において、穢れを家に持ち込まないため、塩を使って身体を清めることに由来しているそうです。

仏教では死を「穢れ」とはみなさないため、お清めをすることに疑念を抱く宗教もあります。中でも、塩を絶対に用いないと知られているのが浄土真宗です。浄土真宗には「往生即成仏」という思想(亡くなった時点で成仏する)があり、死を不浄とする考えに基づく清め塩は迷信だと考えられており、絶対に塩は使われません。

また、宗教的な考えだけではなく、地域に伝わる風習や慣習も関わってきます。そのため、神道の葬儀であっても、地域によってはお清め塩がない場合もあるようです。

世界で行われるお清めについて

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海外では、負を断ち切るために「お清め」をするという行為はあまりみられません。死についても「死=悪いこと」ではなく、神の意志によって起こるものとされている宗教が多く、穢れとみなすことはありません。

ただし「お清め」という行為はあります。例えば、世界三大宗教の一つであるキリスト教の「聖水」を用いたお清めは有名ですが、世界的にみても水を使用したお清めは多いです。

日本では神社を参拝した際、手水舎(「ちょうずしゃ」「ちょうずや」)で手や口を清める印象が強いかもしれません。イスラム教やヒンドゥー教においては、儀式の前に入水し身体と心を清めます。

水がない地域、または水が使用できない人は、大地の砂を使用し身体を清めます。世界的に「お清め」という考え方はあるものの、「死」に関わることでお清めをするという考え方は、非常に少ないです。死に対する考え方が、まったく異なっているといえるでしょう。

そのため、世界的に「お清め」は、出生時や祈りの前などに行われることが多く、負のできごとを断ち切るための「お清め」ではないのです。

お清め塩を使うかどうかは自己判断

ここまで「お清め塩」の由来や各宗教での考え方などについて紹介してきましたが、本当に必要なものなのでしょうか。

死を穢れとみることに抵抗がある方や、死が近づいてきてほしくないので断ち切りたいなど、多くの考え方が存在すると思います。こうした古くからの風習にならい、お清め塩を使用する方は非常に多いです。

お祓いをするのは故人の霊ではなく、死に寄りつく邪気であるため、お清めをしたほうが安心かもしれません。しかし、仏教にも「死=穢れ」という考え方がないことから、仏教の葬儀の際には、お清めは必要ないとも考えられます。

日本人は現在に至るまで、さまざまな文化や習俗、宗教の影響を受けてきました。仏教式であっても、各宗派の開祖の時代とは異なる形式になっています。つまり、清め塩を使うか否かは、各人の考え方次第です。また、地域や各宗教によっても考え方や慣習はバラバラなので、あまり気にする必要はありません。どうしても気になる方は、葬儀会社などに相談するのがよいでしょう。